2.2 小売業 業務プロセス 購買

業務プロセス

小売業の購買業務は、品揃え計画(MD :Merchandising)にもとづいて商品を調達し、店舗へ安定供給する業務です。仕入先の選定から発注、入荷、検収、仕入計上、支払までを管理し、粗利益率や在庫回転率を左右する重要な役割を担います。

仕入先選定      

発注に先立って、商品部は仕入先の選定・評価を行います。安定供給を実現するため、可能な範囲で仕入先の経営状況や市場での評価を把握したうえで、商品力(市場性、ブランド力)、価格水準、決済条件(締日・支払サイト)、返品条件、リベート条件、供給体制の安定性、取引実績・市場での信用度などの観点、リテールサポート能力や商品・販売に関する提案力を含めて総合的に判断します。中堅小売業では、形式的な信用調査に加え、実績や市場での評判を重視するケースも少なくありません。

選定後に取引基本契約を締結します。個別商品条件やリベート条件については、基本契約に加えて個別覚書で管理する場合もあります。

仕入先マスタ登録

新規仕入先に関する運用面の基本情報を決定し、仕入先マスタへ登録します。なお、基本条件を定めた契約と実務運用面のマスタ情報の整合性についても確認を行うことが重要です。条件の整理が不十分なまま取引を開始すると、後日の請求差異やリベート精算時のトラブルにつながるため注意が必要となります。

仕入先マスタは、取引の基本情報であり、支払口座を含む支払条件を保持しており、不正や誤謬による影響が大きいため、その取扱いには留意が必要となります。

一般的に、仕入先の基本情報は商品部が取得し、経理が支払関連の条件を確認し、商品部の部長等の最終権限者が承認を行います。その後、基本属性は商品部が、銀行口座を含めた支払条件については経理が情報システムに登録を行います。このように職務分掌を明確にすることで内部統制を機能させます。

上記は新規取引時の手続きですが、取引開始後も定期的に評価を実施し、必要に応じて取引条件の見直しや取引停止判断を行います。

なお、支払口座や支払サイトなどの変更は不正リスクが高いため、新規登録と同等の承認手続きを適用し、変更履歴を保持することが重要です。

商品マスタ登録  

新たに取り扱う商品については、情報システムに商品マスタを登録し、一元管理を行います。

商品マスタは購買業務に限らず、在庫管理、販売管理、POS(Point of Sale)、EC(Electronic Commerce)、利益管理など、あらゆる業務で共通利用される基盤情報です。
一般的に商品はSKU(Stock Keeping Unit:サイズ・色等の在庫識別単位)で管理されます。

登録主体は、商品部のオペレーション担当部署、または管理部門が一括して行うケースが一般的です。

主な登録情報として、商品コード(SKU)、JANコード、商品名称、型番・品番、商品属性、ブランド、部門、商品分類、カテゴリ、仕入先コード、標準仕入単価、発注単位、販売単価、販売単位、容量・規格、原産地、商品ステータス、消費期限管理要否、ロット管理区分、税区分などがあります。

なお、価格について、実取引価格は価格マスタ等で管理されることが多くあります。

登録効率化のため、卸が保有する商品マスタ情報を小売業へ電子データで提供を受ける場合もあります。

発注 

発注の形態としては、一般的に本部の商品部が主導的に発注を行う方法と店舗が主導的に発注を行う二つの方法に区分されます。

商品部主導の発注は、商品政策や販売計画を実現するための「攻め」の発注であり、新商品、季節商品、特売商品などを対象とします。一方、店舗主導の発注は、欠品を防ぎ日々の販売を維持するための補充発注が中心となります。

商品部主導の発注については、オペレーションは商品部でほぼ完結しますが、店舗主導の発注については、形態としては、大きく2つのパターンに分かれます。 

店舗からの発注依頼に基づいて、本部で発注情報を集約して仕入先に対して発注を行う方法と、本部は介さずに直接店舗から仕入先に発注を行う方法となります。また、両者の発注パターンが併存し、商品によってこのパターンを使い分けるという場合もあります。

店舗からみると本部経由の場合と直接発注の場合とでは、発注行為自体には変わりはありません。

一方、本部経由の発注では、店舗からの発注依頼データを本部で集約し、社内在庫も考慮したうえで、商品部が仕入先への発注を行います。発注数量を集約できるため、仕入先との価格交渉やボリュームディスカウントの獲得が容易になるというメリットがあります。

店舗での発注数量の決定に際しては、売上動向、在庫、発注残、過去の発注実績を確認するとともに、天候、曜日、季節要因、各種行事や販促施策などの情報を踏まえ、仕入予算、発注ロット、リードタイムを考慮して行います。近年では、需要予測システムやAIを活用し、過去の販売実績や天候予報、地域イベントなどのデータを分析して発注数量を算出・提案する仕組みを導入する企業も増えています。ただし、最終的な発注数量については、現場の状況や商品特性を踏まえて担当者が判断することが一般的です。

発注数量の決定には、いくつかの重要なポイントがあります。例えば、発注残はすでに発注済みで未入荷の商品を示しますが、この点を見落とすと二重発注につながる恐れがあります。また、商品ライフサイクルがピークを過ぎて売上が減少傾向にあるにもかかわらず、前回と同数を発注すると在庫過多を招く可能性があります。さらに、天候や各種行事、販促施策などは需要に大きな影響を与えるため、これらを適切に見極めなければ、欠品や過剰在庫の原因となります。このように、発注業務では多様な要素を総合的に判断することが重要であり、需要予測システムやAIは有効な支援ツールとなりますが、最終的には担当者の知識や経験に基づく判断が重要となります。

補充発注では、システムにあらかじめ発注点(Reorder Point)を設定し、在庫数量が発注点を下回ると、自動的に発注データを作成したり、発注候補リストを出力したりすることで、発注業務の効率化を図る方法が広く採用されています。

近年では、需要予測システムやAIを活用し、売上予測や季節変動なども加味して発注数量を提案する仕組みを導入する企業も増えています。

しかし、発注は外部取引先に対する支払を伴う重要な取引であるため、自動作成された発注データやシステムによる提案をそのまま送信するのではなく、担当者が内容を確認したうえで、社内規程に基づき店長などの権限者が承認し、最終的に発注を確定することが求められます。

実務上の発注方法は多様です。発注品目と数量を決定したうえで、発注書を作成してFAXや電子メールで仕入先へ送付する方法のほか、専用端末、Web発注システム、EDI(Electronic Data Interchange)などを通じて発注データを送信する方法があります。また、店舗ではハンディターミナルを使用し、売場やバックヤードの在庫を確認しながら商品コードを読み取り、発注データを作成する方法も用いられます。

いずれの方法による場合も、入荷時に発注内容と納品内容を照合できるよう、発注品目、数量、発注日、仕入先、納期などの記録を保存しておくことが必要です。

発注データは、その後の入荷、検収、仕入計上、買掛金管理などの基礎情報となります。このため、発注データをシステム上で作成し、後続工程へ連携することで、各工程における重複入力を減らし、処理の効率化と正確性の向上を図ることができます。

入荷・検収

仕入先からの商品入荷は、物流形態によって大きく次の2つに区分されます。

A:本部物流センター(物流部)を経由して店舗へ配送する場合

B:仕入先から店舗へ直接納品する場合

A 本部物流センター経由

本部物流センターを経由する場合は、商品部が発注を行い、物流部が商品の受入れ、検品、店舗への配送を担当します。商品部と物流部で役割を分担することにより、専門性を高めるとともに、発注業務と現物受入業務を分離し、内部牽制を機能させています。

物流部では、発注に基づく入荷予定情報と現物商品、納品伝票を照合し、商品や数量などの確認(検品)を行います。その後、発注内容と照合して受領を確定(検収)し、システムに入荷情報を登録します。企業によっては、数量確認は物流部が担当し、仕入単価などの金額確認は商品部が担当するなど、役割を分担する場合もあります。検収が完了すると仕入処理が確定し、発注残も更新されます。

分納、過納、返品、仮伝票などのイレギュラー処理は、在庫数量や仕入情報に影響を及ぼすため、社内ルールに従って適切に処理することが重要です。

その後、物流部で店舗向けの出庫処理を行い、移動伝票とともに商品を店舗へ配送します。店舗では入庫処理を行い、店舗在庫として管理します。

B 店舗への直接納品

仕入先から店舗へ直接納品される場合は、店舗が商品の受入れを行います。発注情報と納品内容を照合し、商品や数量などの確認(検品)を行った後、受領を確定(検収)し、システムへ入荷情報を登録します。検収が完了すると発注残が更新されるとともに、仕入処理が確定します。

近年では、店舗での作業負荷軽減を目的として、納品精度の高い仕入先との取引では受入検品を省略する「ノー検品」を採用する企業もあります。ただし、この方式はEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)や事前出荷情報(ASN: Advance Shipping Notice)などを活用し、納品精度が十分確保されていることが前提となります。

また、分納、過納、返品、仮伝票などのイレギュラー処理については、本部物流センターの場合と同様に適切な処理が求められます。店舗ごとに処理方法が異ならないよう、業務手順を標準化するとともに、担当者への教育を徹底し、在庫精度を維持することが重要です。

入荷した商品はバックヤードで一時保管されるほか、商品によっては入荷後すぐに売場へ陳列されます。

支払

発注が店舗主導型であっても、支払業務は本社で一括して行うことが一般的です。店舗で発注から支払までの業務が完結すると、不正や誤謬が発生するリスクが高まるためです。

支払に先立ち、請求内容を確認して買掛金を確定します。商品部は、検収が完了した仕入実績を確認し、必要に応じて仕入内容を承認します。一方、経理部は、仕入先から送付された請求書とシステム上の仕入・検収実績、契約条件などを照合し、請求内容に誤りがないことを確認します。購買システムが導入されていない場合には、店舗で請求内容を確認した後、請求書を本部へ送付して支払手続きを行うこともあります。

請求書との照合は大量のデータを取り扱うため、仕入先から請求明細データを受領し、自社の仕入明細データとシステム上で突合することにより、確認作業を効率化する企業も多く見られます。

また、仕入先との合意に基づき、仕入先からの請求書を待たず、自社で確定した仕入金額に基づいて支払を行い、その明細を仕入先へ通知する支払通知方式(セルフビリング)を採用する場合もあります。この方式は、仕入データの精度が高く、取引先との信頼関係が構築されていることが前提となります。

最終的には、商品部の承認結果および経理部による照合結果に基づき、決裁権限者の承認を経て、契約で定められた支払条件(締日・支払日・支払方法)に従って支払を実行します。

支払業務では、発注・検収・支払の各業務を適切に分離するとともに、請求書との照合や承認手続きを徹底することで、特定の仕入先との癒着や不正を防止するため、また、買掛金の正確性を確保することが重要です。