1.2 組織 組織設計・運用のポイント

全般

組織は企業によってさまざまな形式がありますが、企業運営を行う上で、組織設計の良し悪しが経営に大きな影響を与えるのも事実です。組織設計・運用について、どのような点がポイントになるのか事例も取り上げながら、代表的な論点を整理します。

ラインとスタッフの分離

組織はその機能の性質について、大きく二つに分けられます。営業部門、購買部門、製造部門といった現業を行うライン部門と、経理や総務など現業部門をサポートするスタッフ部門です。

ライン部門は指揮命令系統として、直接、現業に指示が出せますが、スタッフはサポートという役割のため、ラインに対して間接的なアドバイスはすることができますが、直接、命令系統を持つわけではありません。

このラインとスタッフの役割機能ですが、経営管理という観点から考えると、ライン部門に対して、スタッフ部門がチェック機能や支援機能を担うことで、健全な業務運営を支える役割を果たします。従って、ライン部門の業務をスタッフ部門がチェックするという機能を活かすために、ラインとスタッフを明確に分離することが望ましいと考えられます。

現業部門である営業部門は販売を増やすのが業務であり、販売予算を抱えていれば、いかにその予算を守るかというプレッシャーを強く受けることになります。一方、経理部門は正しい会計処理を行うとともに、健全な業務処理のサポートをする役割が期待されます。

例えば、販売目標を達成するために無理な出荷を行う「押し込み販売」が発生するケースでは、経理部門などのスタッフがチェック機能を果たすことで、問題を早期に発見することが可能です。

組織設計については、このライン業務とスタッフ業務の切り分けがとても重要である点を理解する上で役立つ一例です。

組織階層の深さ

企業規模が大きくなると、組織も複雑になり、組織階層も段階が増加する傾向にあります。階層組織は命令系統が一方向であるため、統率をとる仕組みとしては、利点も多いですが、組織階層が深くなりすぎると、現場の情報がなかなか上層部に上がらないという短所もあります。

役割分担については、組織規模に対して階層が極端に細分化されると、この例のように情報伝達に時間がかかったり、業務がサイロ化して迅速な環境変化への対応ができなくなったりする場合があります。組織設計時には、必要最小限の階層にとどめ、情報伝達のスピードや柔軟性を損なわないように配慮することが重要です。

人員配置のバランス

組織の各部署の業務をこなす上で一定の人員配置が必要となります。ところが、企業によっては人員配置のバランスを欠いた例も見られます。

例えば、経営トップが営業出身の場合、売上に直結する営業部門には手厚く人員を配置する一方で、直接、収益を生まない管理部門については、コストをあまりかけたくないという考え方から、人員をあまり配置しないという例も見られます。

また、営業所を展開しているもののカバーしているエリアと人員とのバランスが極端に悪く、十分な営業活動が見られない例もあります。

程度問題もありますが、人員配置にバランスを欠くと、過度に特定の人員に業務が集中し、業務は円滑に遂行されず、かえって効率を妨げるというリスクにもつながります。

もちろん限られた経営資源を考えた場合、会社の強みや中心的な事業以外に多くの人員を割くことに対して消極的な意見もあるのも事実です。本業以外の業務領域で、かならずしも社内で行う必要のない業務については、中途半端な人員体制で行うよりもアウトソーシングによって社外に委託する方が効率的な場合もあります。

利益管理部門

企業は全社および各部署のパフォーマンスを測定するために、売上、利益といった定量的な計数管理を行います。この際に、損益責任単位と組織の部門単位が一致しないと、具体的なアクションに結びつきにくく、実効性が得られにくいというデメリットがあります。

下記の例では、営業組織は地域別に構成されていますが、損益レポートは商品群単位で表現されています。意思決定の基礎資料としては、地域別に取り扱う商品群は明確に分かれていれば別ですが、損益レポートの集計単位と意思決定ができる組織単位が一致しているのが一般的です。

この例はかなり極端なケースであるものの、組織変更など様々な要因により、当初は一致していた計数管理の単位と組織構成単位に乖離が生じてしまうケースはよく見られます。

兼務

「管理者を任せられる人材が社内に少ない。」経営者から良く聞く言葉です。特に中堅企業では、その傾向が強く、一人の管理者が複数の部署の管理を兼務せざるを得ない状況にあるのは事実です。

しかし、特に重要なポストの兼務ということになると、程度問題でもありますが、特定の人に過度の権限が集中することとなり、あまり望ましいものではありません。

特に注意が必要なのは、上下関係(いわゆるタテの兼務)よりも、部門をまたぐヨコの兼務です。ヨコの兼務は、分化された組織の機能を形骸化させ、権限の過剰集中を招く可能性があります。

権限が集中している人物が長期で不在になったときに、業務遂行上の影響が出たり、この人物に対しては、反対意見を出しにくくなり、部署が分かれることで効いていた牽制機能が弱くなったり、という弊害が現れます。兼務についてはこうした点に留意が必要です。