1.6 グローバル展開 販売、生産、そして開発機能へ

概要

第二次大戦後、日本の製造業は北米、ヨーロッパ、そしてアジアを中心する海外市場を強く意識し、積極的に進出を行いました。こうした海外進出に伴い、販売拠点が海外に設けられました。そして、1985年に日本の製造業にとって大きな転機が訪れました。プラザ合意です。これ以降、急激な円高となり、製造業は生き残るために海外へ生産拠点を移す企業が多く現れました。

急劇な円高以前は、日本で製造した製品を海外に輸出するというモデルであったため、海外の拠点は、販売機能が中心でした。しかし、プラザ合意以降は、円高により、国内生産では価格競争力を維持できないことから、生産機能の海外移転が行われるようになったのです。完成品メーカーが現地生産を始めたことで、現地での調達ニーズが高まり、部品メーカーも供給体制維持のために現地進出を余儀なくされました。こうした流れの中で、多くの中堅企業の部品メーカーも海外進出を行いました。

そしてグローバル化が進む中、さらなる変化が見られます。開発部門の海外展開です。これまでは、販売機能と生産機能を海外に移転したものの、開発機能は依然として国内に活動を続けてきました。しかし、グローバル化が進む中で、地域(ローカル)ごとの市場ニーズの違いに対応する必要性が高まってきました。これに対応するために、巨大市場に近い場所で研究開発を行う方が製品化の実現までの時間が短縮できるという考え方が支配的になってきました。

グローバルに展開する製品メーカーの中には、部品メーカーに対して、研究開発機能が市場ごとに存在していること、という点を取引先選定の条件に盛り込む場合もあります。

さらに、世界各地に進出している製造拠点を踏まえて、調達についても全体最適を考慮して、グローバルで集約し、グローバル調達センターを設置する企業も見られます。

このグローバル調達センターについては、パンデミックの際に、ロックダウンの影響で物流網が寸断した経験を踏まえて、調達先の多元化の動きが見られます。あるいは経済安全保障の観点から特定国に依存しないサプライチェーンの再構築の動きも見られます。

さらにはESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governanceの頭文字をとった用語で企業が持続可能な経営を行うために考慮すべき3つの要素)の流れの中で、サプライヤーを含めた環境への配慮、人権にかかわる労働環境への関心の高まりもあり、各国で強化される人権デューデリジェンス義務などを受け、サプライヤー監査の重要性も高まっています。

日本国内のみで事業展開を行う場合に比較して、先にあげたビジネスプロセスが世界各地に展開しているので、管理の難易度は高まります。それに加えて、国境をまたぐことで、為替、税務、会計、法制度等の様々なリスクが複雑に絡み合うので、経営の難易度は一層高っています。

第2次トランプ政権の誕生により、米国は各国に関税を課すことで製造業の米国回帰を促そうとしています。このインパクトは各国、各企業に大きなインパクトを与えています。これまで築き上げてきたサプライチェーンの変更には多大な労力と時間がかかるためです。いずれにしても新しいグローバル環境の中で企業は生き残りをかけて変革を求められています。