1.5 業務プロセスと組織の役割

概要

製造業の業務プロセスと組織上の部署との対応関係ならびに各部署の主要な役割を整理・解説していきます。組織形態は企業の規模、生産形態によりさまざまですが、理解を深めやすくするため、以下では製造業の典型的な組織構成例をもとに説明します。

【組織例】

開発 

プロセスの最初にあたる「開発」を受け持つのは、組織例でいうと製品開発部にあたります。開発は、新しい製品を生み出す役割、いわば「新たな製品価値の創出」を意味します。他社ではマネのできない付加価値の高いモノを創り出せば、競争力は増し、収益に大きく貢献します。

製品開発といっても企業によってさまざまです。大きく分けると、(1)既存製品をベースにして、製品の改良によって新しい製品をつくるという方法と、(2)これまで世の中にない、まったく新規の製品開発を行う、という方法の二つに分かれます。

(1)は、これまでの経験が生かせることから、実現までのハードルは相対的に低いと言えます。一方、(2)は実現すれば、先行者利益は極めて大きいものとなりますが、未知の領域なので、チャレンジも多く、実現までの道のりは険しいと言えます。そこで、開発にあたっては、すべて自社で行う単独開発ではなく、知見のある他社と連携しながら、場合によっては企業買収をして開発を進めるケースも見られます。

製品開発部の組織においては、製品別の開発リーダーの元で、開発チームが組織され、機械設計、電気設計、ソフトウエア設計など専門領域のメンバーが配置され、互いに連携しながら製品の設計、仕様決定、プロトタイプの作成を行います。

製品開発は製品のアイデアの発案から製品のリリースまで広範囲な領域に及ぶことから、他部署との連携も重要になります。市場のニーズの取り込みという視点では営業部門、調達の面では資材部、技術的な検討や量産の視点では生産技術部、製造部、さらに品質管理部との連携が求められます。また、法規制対応や知的財産の管理、コスト管理などの観点では、法務や経理などのコーポレート部門との連携も非常に重要です。

調達 

「調達」業務は、組織例においては資材部が担当します。ここでいう調達とは生産に必要な原材料を安定的に確保する活動を指します。資材部では、調達に伴う新規資材の開拓および仕入先選定、仕入先・外注先との取引条件の交渉、契約に至る業務を行います。そして、発注・仕入・支払依頼などの購買実務全般と資材在庫の管理について、資材部がその責任を担います。

各部署が個別に仕入先と交渉して調達を行うのではなく、調達の窓口を一本化することを集中購買と言います。窓口を一本化することにより、仕入先・外注先に対する品質、価格などの評価情報が集約できるとともに、発注規模を集約することで、仕入先・外注先との交渉が有利に働き、原価低減に寄与します。

原材料を適切に調達するためには、その前提として、何をどれだけ、いつまでに生産するのかという生産情報を得る必要があります。

見込生産の場合、営業部の販売計画をもとに製造部が生産計画を作成します。資材部はこの生産計画にもとづいて、製造部と連携して手配が必要な原材料を算出した購買計画を策定して、原材料の手配を行うことになります。

さて、調達は生産を安定的に行うために重要な役割を担いますが、コストダウンという観点でも購買活動の重要性は高いと言えます。特に原価に占める原材料費の比率が高い製品の場合は、資材部による価格交渉が原価低減に大きく寄与します。

生産 

「生産」プロセスは、製品の製造活動を中心とする工程であり、組織上は製造部がこれを担います。製品の生産・製造の全般を受け持ち、製造部には、製造ラインを有する各工場が所属し、実際の生産活動が行われます。組織構成としては、工場単位あるいは製造ライン単位で構成されるのが一般的です。

受注生産の場合は、営業部を通じて顧客からの注文を受けた後、顧客要求に基づき製品開発部が設計・開発を行います。製造部は、決定された仕様をもとに、納期を考慮した生産計画を策定し、生産を行います。

一方、見込生産の場合には、営業部から提示される販売計画に基づいて製造部が生産計画を立案し、あらかじめ製品の生産を行います。

製造部内では、各課が以下のように役割分担されています。生産管理課は生産計画の立案や進捗管理を担当し、物流課は資材および製品の入出庫管理や構内物流を担います。製造課は、現場の製造ラインにおいて実際の製品製造を担当します。

販売 

「販売」プロセスは、営業活動全般を統括する営業部が担います。営業部は営業戦略の立案に加え、マーケティング活動や販売業務全般を統括し、その成果に対する責任を負います。

新規顧客の開拓や既存顧客への販売拡大を目的として、提案・折衝などの営業活動を展開します。業務範囲は、見積や提案から始まり、受注・契約手続き、そして債権の回収まで多岐にわたります。

見込生産の場合、営業が提示した販売計画にもとづき、製造部が生産をしています。このため、完成品の在庫については製造部門から営業部へと管理責任が移管され、以後は営業部が在庫責任を担います。

技術的に優れた製品であっても、品質・コスト・納期の条件を満たしていても、実際に販売されなければ企業収益には貢献しません。その意味で、営業部の果たす役割は極めて重要です。

サービス  

「サービス」プロセスは、この組織例では営業部内のサービス課が担当し、製品販売後の顧客対応業務を主に担います。製品の特性によっては、販売時に設置工事・初期設定・ユーザートレーニングといった役務提供が必要になることがあります。また、販売後には製品の定期メンテナンスや修理対応など、アフターサービスが求められます。サービス課はこれら一連の業務を担当します。

特に設備装置メーカーの中には、製品販売よりもむしろ、保守・メンテナンス契約などのサービス収入が利益の中心となっている企業も存在します。このような場合、サービス部門は営業部から独立した「サービス部」や「サポート部」として組織されることもあります。

製品そのものの機能や性能に加え、提供されるサービスの品質が顧客満足を大きく左右することも少なくありません。そのため、「製品はサービスの入り口」と位置づけ、サービスを重視する企業も多く見られます。

サービス課はエンドユーザと直接接点を持つ機会が多く、製品に対するクレームや品質上の課題、さらには顧客の潜在的ニーズといった情報を収集できる立場にあります。これらの情報は、製品改良や新規製品開発のための貴重なフィードバックとして製品開発部に共有されます。

このように考えると、製品開発から販売、サービスに至る一連のプロセスは直線的なものではなく、顧客からのフィードバックを再び製品開発へと還元する「循環型のサイクル」として捉えるべきであると言えるでしょう。

上記の説明では各プロセスに注目していたので、プロセスと直接的に対応していない組織を以下、まとめて整理します。

生産技術

生産技術部は、「モノの作り方」と、それを実現するための「生産設備」の両面を担当します。生産設備を含めた生産技術全般を受け持つとともに、製品開発部が行った設計を、量産に適した形に展開し、生産ラインに実装する役割を担います。

見込生産の場合、製品開発部が作成した図面、仕様書、部品表、試作品などを基に、量産に向けた製造プロセスを設計(量産設計)し、必要に応じて量産試作を行います。そのうえで、実際の生産方法について技術的検討を加えます。また、生産性の向上を目的として、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)それぞれの観点から、工程の最適化や設備改善などを通じた継続的な改善活動を行います。

新工場の建設や新ラインの準備については、生産技術部が量産設計、生産指導を主導し、生産活動ができるようになると製造部に管理を移管します。生産技術部は、ルーティーンな生産には関わらず、技術的なバックアップを行う役割を担います。量産設計や生産手法の検討においては製品開発部と密接に連携し、また、品質管理や各種規格認証に関しては品質管理部と連携して対応します。

品質管理

品質管理部は製品の品質を確保し、顧客のニーズや規格に合致した製品を提供するための活動を担い、製品品質の維持・向上に関する一連の活動を統括し、その実行責任を負います。

たとえば、資材調達においては品質基準の策定や受入検査を、製造プロセスにおいては製品の品質基準の設定や出荷前検査を実施します。

製造部に検査担当者が配置されている場合は、品質管理部と製造部の検査担当者が連携しながら業務を進めます。この場合、品質管理部は品質方針や基準の策定など企画的機能を担い、検査業務の実務は製造部側が担当するという役割分担になります。

ISO9001(国際標準化機関が定めた品質マネジメントシステム)やCEマーク(EUが定めた製品安全規格)などの品質規格認証の取得やその後の運用体制の整備においても、品質管理部が主導的な役割を果たします。これにより、業務の標準化や継続的改善が図られるケースも多く見られます。

なお、企業規模によっては、品質管理部を独立した部門として設置せず、部門横断的な委員会形式で品質管理機能を担うケースもあります。

管理

管理部は、企業活動を支える間接部門として、経理・財務、人事、総務、法務、情報システムなどの管理機能を統括し、全社の業務基盤を整備・運営します。

経理は、会計帳簿の作成や決算業務、取引先との債権債務管理をはじめ、予算編成・損益管理、資金調達、入出金管理など、企業の経営数値を支える業務を幅広く担当します。

人事総務は、従業員・アルバイトの採用、人事評価、教育・研修、社会保険・労働保険、労務管理全般と勤怠管理・給与計算を受け持ちます。さらに、固定資産やリース資産の管理、契約書や稟議書の管理、会議体の運営など、会社運営に関わる共通業務(庶務)も担います。

法務は、契約書のレビューや特許など知的財産権管理を行い、外部弁護士との窓口も行います。特に製造業では、技術情報やノウハウの保護が重要となるため、知的財産権の管理は法務部門の中でも重要な業務となります。

情報システムは、ハードウェアやネットワークなどのインフラ管理やセキュリティ対策に加えて、生産管理、販売・購買、在庫、会計などの業務系システムの企画・導入・保守・運用管理を担います。 規模の小さな企業では、財務と経理が同一部署内で兼任されたり、人事・総務・法務が一体運用されたりするケースも見られます。情報システム部門も、総務や経理に統合されている場合があります。このように、組織体制は企業規模に応じて柔軟に運用されています。